『黒潮』第4話「眼鏡をかけた街娘」

「あ~濡れた濡れた!!」

「ライブ見るのもいいけど、宿も探さないとだね」

「あ、そうだったな…まぁ、ここの人に聞けばどっか知ってるだろ」

 

 

到着したライブハウスの中では、歪んだ重たい音が高速で鳴り続けていた。

 

「なんのジャンルかわかる?」

「詳しくは分かんねーけどテクノだよな。激しいところはデスメタルと似てるぜ」

「じゃあ、あのCD聴かせても大丈夫な人もいるかも」

 

流れる爆音に身を揺らしながら、「それっぽい人」を探す。なかなか見つからない。ジャンルが違うのだから当たり前か…

そう思っていると、誰かが僕らに呼びかけてきた。

 

「金髪のお兄さん!そのシャツ!メタルですか?!」

 

マグロが着ているのは、物騒な柄のTシャツ。そういえば、旅に出る前に掃除させられたCDの山の中に、同じ絵があった気がする。

なるほど、こうして好きなシャツを着ておけば、同じ趣味の人に見つけてもらえる、ということか。

 

「おっ、そうっすよ!お兄さんもメタルで?」

「まぁ、そうですね!ここでお仲間に会えるとは思ってなかったです、はは」

 

見た目は全然「それっぽく」ない、至ってフツーの社会人という風貌だ。

 

「テクノも聴くんですか?」

「いや、今日はたまたま…あっ、そうだエンガワ、この人メタルだからアレ聴けるぜ」

 

 

 

「なるほど、それは難しいね」

「何か知ってることとか…あと、知ってそうな人とか、いたりしますか?」

「うーん、自分は知らないんだけど… あっ。あの子は… まあ、聞くだけ聞くのは良いか。今日は来てるのかな…」

「誰かいるんですか」

「一応ね。こういう激しいテクノが特に好きな子がいて、その子すごい機械に強いっていうか、情報通?っていうか」

「おぉっ?!その人紹介してくださいよ!」

「最先端だよ。ただデスメタルは詳しいかどうか分からないんだよね…とりあえず今日ここに来てるか、探してみようか」

「お願いします!行きましょう!」

 

 

 

「眼鏡、赤髪…」

 

教えてもらった特徴をブツブツ唱えながら、人混みを縫っていく。

 

「すぐ見つかりそうなもんだけどな」

「かなりハデそうだよね」

「来てねーのかもな」

 

 

「眼鏡、赤…」

「あっ」

 

黒縁眼鏡をかけた女の子が、壁に寄りかかっている。赤いセミロングの髪を後ろでバサっと留めて、白いタンクトップにスリムジーンズ。ラフだけど絵になる。

身長は僕と同じくらいだろうか。高くはない。

 

「すいませーん、ちょっと話いいっすか」

「何?」

 

あっ、その目、ナンパか何かだと思ってない?

マグロの見た目と喋りがチャラチャラしてるから仕方ないけど。

 

「とりあえずココうるさいんで、外に…」

「この人の終わったらね」

「あ、了解っす」

 

チャラチャラしてるけど…いや、してるから?人と話すのは得意だよね。正直、僕一人で旅をするのは、ものすごく大変だったと思う。

 

 

 

「何か用?」

「パソコン得意な情報通って、あなたのことっすか?」

「多分そうね」

「おお!ちょっと探してる人がいて、力貸してほしいんですけど…」

「いいけど…ていうか、あなたたち誰なの?」

「あっ」

 

かくかく、しかじか…

 

 

「あたしのことはトビーって呼んで」

「でさ、良ければでいいんだけど、今晩トビーの家ちょっと貸してくれない?」

「ダメ」

「ですよね」

「まあ…困ってるなら、安いホテルぐらい探してあげるけど」

「おおっ!ありがとうございます!!」

「…エンガワ君、こいつと一緒でうるさくない?」

「い、いや、そこまででは…」

「そこまででは、って何だよ!!」

「ちょっと、耳元で騒がないでよ」

 

「おおー、トビーちゃん、来てたんだね」

「あっ、さっきの…」

「イワシさん。この子たち知り合いなの?」

「いや、まあ、さっき知り合ったというか、その金髪君がメタルシャツだったからさ、ははは」

「ふーん…ていうか、メタルならイワシさんに聞いた方が早いんじゃ?」

「いやいや、自分も知らなくてさあ。だから、ズバリ何のバンドかというよりは、こういうのに詳しそうな人とか、周りを調べてほしいかなって…だよね?」

「そうっす!」

「なるほどね。じゃあ…このイベント終わったら、サブの携帯貸すから、それであたしに連絡して」

「了解っす!ありがとうございます!!」

 

 

 

プルルル…

ガチャッ

 

「もしもーし、マグロでーす」

「はい、トビーです、お疲れ様」

「お疲れっす!!」

「もーちょっとボリューム下げてくれないかな…で、今そのメタルに詳しい人がいそうな場所を探してるんだけど…あなたたち車とかで来た?電車?」

「バイクでL市から来ました!」

「バイクかーちょっと遠いな…」

「あ、じゃあ電車でもいけるっす」

「ん?どういうこと?」

「あーっと… まあ、その、盗んだバイクでアレですよ、走り出してきちゃって?適当に処分すれば良いかな的な?」

「はぁ?!あんたたちそんな悪事を…!」

「ま、まぁまぁ!これにはワケがあって!!」

「ワケも何もあるの?!何なのよあんたたちは!」

「そのバイクの元の持ち主が強盗なんすよ!それを倒して、奪って、だからまぁ逆に正義的な?なりませんかね?」

「ならないから!!…しょうがないなぁ、でもとにかく電車で行けるってことなのね」

「そうっすよ!」

「じゃあそうだな…明日の夜また電話して。それまでに調べたりしとくから。あとバイクは警察に届けておいて」

「了解っす!ありがとうございます!!」

「じゃあね~」

 

 

「なんか騒がしい電話だったね」

「おっ、まぁな。あいつオレの声でかいって言うくせに自分だって騒いでるし、いちいち口うるせーし、なんなんだ」

「弟みたいに思われてるんじゃない」

「えー、やだ、いつも怒られそう」

「あはは」

 

 

次の日、僕たちはバイクを手放すため交番に向かっていた。

 

「バレないと良いけどな~…」

「多分さ、オレが話しに行くと疑われるよ、職質何回もあるし。だからエンガワ行ってこい」

「そ、そうだったんだ…なんとかしてみる…」

 

 

「そのバイクを拾ったの?」

「ま、まぁそんな感じで…」

「そうかー。わざわざよく届けてくれたね」

「あっ、はい、じゃあよろしくお願いします」

「はーい」

 

 

「いけた?」

「意外と大丈夫だった…あー、捕まったらどうしようかと思った!」

「よしよしっ、これで身軽になったな」

「今日は何しよっか」

「トビーが夜に電話しろって言ってたけど、それまでヒマなんだよな」

「夜に連絡するんじゃライブ行きにくいしね」

「うーん。トビーん家行くか?」

「え?」

「いや夜までに色々調べるって言ってたから、行けば早く分かりそうじゃん」

「そうだけど、場所が分かるの?」

「何のための携帯だよ」

 

プルル… ガチャ

「もっしもーしマグロでーす!」

「はいはい、聞こえてるから…ていうかまだ昼なんだけど。夜にかけてって言ったでしょ」

「いやー暇だからトビーん家行って聞いた方が早いかなって。あと夜にかけてたらライブ行けないし」

「ええ…何それ… でもまぁ丁度いいや、ちょっと手伝ってほしい事があるからね」

「んっ?」

「そこから右向いて」

「うん。ん?」

「そのまま真っすぐ歩いてってー」

「んん?何何?」

「マグロどこ行くの」

「なんか方向指示してきてる」

「ええ…なにそれ…」

「はいストップ。左に曲がってー」

「うんうん」

「ストップ!はい右向いて、上見て!」

 

右のビルの10階くらいから、赤髪の女の子が手を振っている。

 

 

「おじゃましまーす!!」

「おじゃましますー」

 

トビーの家に入ると、何かよく分からない大きな機械が、所せましと並べられていた。ケーブルやダンボールで見通しが悪い。あちこちで赤や緑の小さい光がピカピカしている。

 

「なんかめっちゃゴチャゴチャしてんじゃん」

「聞こえてるんだけど。ゴチャゴチャしてるのはこれからここを出るからなの」

「あっ、そこにいたのか。引っ越すの?」

「まぁね。ここ会社の社員用のビルなんだけど、丁度本部の方からお呼びがかかったから、そっちに移動」

「へー。本部ってどこ?」

「次に2人が目指す街、S区にあるの」

「おお… ん?オレ達もついでに行くってこと?」

「そう、正解。行き方分かんないでしょ?」

「マジか、助かるー」

「だから、その代わり片付けの手伝いしてねってこと」

「ああっ?!なんだそりゃ?!」

「うぇー、また片付けするのー?!」

「考えてみて、3人でパパっと片付ければ明日に出られるようになるんだから、お互いに得するでしょ?」

「なるほど…」

「なるほどなのかな…」

 

 

「お疲れさんでした!!」

「やっと終わった…」

「お疲れさま!じゃ、S区について軽く話とくね」

「ういっす」

「ここN市よりもっと大都市なのは知ってると思うけど、特に音楽が流行ってるというか、ライブハウスもレコード会社も集まってる場所なのね。メタル扱ってる所もだいたい分かったから…」

「おぉ!」

「あとは分かるね」

「聞き込みまくりっすね!」

「そういうことだから、明日の朝9時にN市中央駅に集まりましょ。電車乗り継いでいったら夕方に着くから」

「了解っす!!じゃあ…エンガワ!今日はなんかメタルな感じのライブがありそうだったよな!」

「うん、あった!」

「そういうことなんで!じゃ!お疲れっした!」

「はーい、ありがとねーまた明日!」

 

 

 

時代の最先端を行く街娘・トビー。縁と縁が結びつき合って、予想外にスムーズな旅になっている。

この運の良さが不思議に思える。まるで、この旅のすべてが、何かに引き寄せられているような…。